春号
2006年春号

  今年も5月の桜の季節があっという間に過ぎました。
  大陸からの黄砂で、助産院の窓ガラスも車も黄色く砂をかぶりました。先日は外の天気を伺いながら玄関先からホースで水をかけ洗い流し、子供の水遊びに似ているかもと思いながら、きれいな窓から青い空を見ては満足していました。前の花壇のパンジーは、大雪の季節をほんの少しビニールで囲いをしてあげたお陰で色とりどりに花を咲かせてくれています。

  助産院の仕事は変わりなく、多分それなりに大変なことが無いわけでもありませんが、つれづれに過ぎています。最近は幸いなことに、ほとんどの情報をインターネットで得ることができるので、外へ出ることが叶わないこの仕事では、大変便利と感じています。

  世間では、お産ができない、場所や人が不足している話題がメディアを通して耳に入ります。石川県でも、産科を閉鎖されている総合病院が今年も増えました。   医療者であり、産む側に近い立場である者としては複雑です。幸い県内では新聞のような「お産難民」は、少ないように思います。
  一方最近の傾向で感じることは、私の助産院でも妊娠の初期、月経の遅れと共に来院される方がほとんどのようです。以前に当院で出産された方は、至極当然なお顔で、ニコニコ来院されます。当院では、開院当初よりあまり多くのお産はお受けできないと表明しています。理由は、それぞれの母子に応じた十分な対応ができなくなるからですが、病院でお産された方では、お断りすることがあると言うことが、ご理解できにくいかもしれません。以前に当院で出産され、今回も来院されている妊婦のお母さんは、「そうでしょうねぇ」と頷かれ、ご自身の予約が間に合って良かったと、素直に喜ばれていました。

  助産院の仕事では、お産に関しては半年以上先の予定が決まります。今年はすでに秋の頃は予定が埋まり、良いご返事ができなくなりました。母乳育児相談で、外来に来られている方で、次回の妊娠の相談をお尋ねになる方については、なるべく早く来院されるようお伝えしています。幸い当助産院では、超音波診断装置も用いて初期の妊娠診断から健診が可能です。当然ですが、妊娠中の正常な経過が大切で、注意と自己管理が自然なお産に繋がります。妊婦本人のご希望と家族の同意があり、十分な問診と健診の上でご返事しています。

  私自身のことでは、昨年の「つれづれ日記」にも書きましたが、 米国の栄養学を学んでいます。きっかけとその時の思いなどは、前回の日記をお読みください。
  米国の栄養学を学ぶに際しては、仕事がそれなりに多忙な上に、今更何のためにわざわざ勉強するのか自問したこともありましたが、自分自身と周囲の人の何らかの健康に役立つであろうと感じていたことと、元々、本を読むのが好きだったことがあります。
  また時間の拘束がやむをえない助産師としては、自分が良い体調 でなければ十分な対応と判断ができないことも、風邪引きひとつでも実感し、予防に知識を生かしたいと感じていました。仕事をしながらも、学科の過程に自分自身の興味と重なるプログラムが多かったこともあり、比較的短期間で3月に修士課程を終えました。
  アメリカの栄養専門大学であるAHCN (American Holistic College of Nutrition)から正式な学位として Master of Science in Holistic Nutrition (栄養学理学修士)を授与され、現在は継続して博士課程で学んでいます。

  健康で生活するために、病気の予防や食育などの言葉で社会でもさまざまな啓蒙活動が始まっていますが、補完代替医療、統合医療と言われる分野でも、人の生命の基本に栄養学は深く関わりがあると考えます。
  助産院での妊婦や母乳育児中の方へのアドバイスを始めとして、日本ではまだ周知されていない栄養療法を関連付けさらに深められれば、関わりのある方々へ少しは役立てられるかもしれないと思います。妊娠、出産、母乳哺育は、日々の日常の延長で、基本的には病気ではありません。
  最近では、サプリメントについて説明する機会や、ご質問にお答えすることも増えつつあります。きちんとした食事の上に、妊娠中に適切な補いを得られた方では、順調な妊娠経過を過ごされる傾向が見られます。また授乳中には母体の栄養バランスと免疫力などに良い調整が得られるなど、日々の暮らしの助けになり、評価できるようになりました。

  当助産院へ、妊娠でも産後の母乳哺育についても来院される方の中には、それなりにさまざまな仕事をお持ちになり、また経験をお持ちの方を多く見受けます。
  お母さんであることと、妻であること、女性であること、仕事をする人であること、そしてその人がその人であることなどが、時に子育てに隠れてしまいます。それぞれの人の生き方に共感できるようでありたいと思いながら、その時々の個別の必要性に合わせて、アドバイスとサポートを提供できればと願っています。

  6月のお産の予定の方を、いつお産が始まるのだろうと気を揉みながら、首を長くして勝手に疲れ、赤ちゃんの都合で生まれるものを、どうしようもないと今更ながら悟ってみたりしています。母乳哺育がスムーズに進み、順調な成長の子供達の笑顔を微笑ましく眺めて見て、何を考えて毎日そんなにニコニコしているの?と赤ちゃん達に尋ねています。いつか教えてくれるといいなと思っているうちに、気づけばひとりで立って、自慢そうな顔で歩き出しています。ヒトの成長はすばらしいと感じています。

              2006年 5月 吉日